木造軸組構造の住宅を建設するまでには、ビルダーがラフなプランを作り、建築設計者が意匠図を作り、構造設計者が構造計算書を作り、さらには木材加工を行う工場がプレカットCADデータを作る、といった伝言ゲームのような分業プロセスがあります。
プレーヤーが多いということは、それだけやり取りの時間が多くかかっていることであり、「連絡のムダ」「手戻りのムダ」が多数発生していることが容易に想像できます。
また、ひどい場合には工務店からプレカット工場にフリーハンドの図面がFAXで送られてきて、プレカット工場の担当者がそこからCAD図面を起こすといった例もあるようです。
こうしたプロセスを改善し、ビルダーやプレカット工場の作業を効率化しようと、住友林業の子会社であるホームエクスプレス構造設計(以下、HM-EX社)は、クラウドによる構造設計支援サービス「構造エクスプレス」を2020年8月1日に開始しました。
福井コンピュータアーキテクトの住宅設計用3次元CAD、「ARCHITREND ZERO」で作成した意匠設計データをクラウドにアップするだけで、
ナ、ナ、ナ、ナント、
AIが自動的に構造設計
を行い、構造計算書や基礎・構造伏図、さらにはプレカットCADデータまでを作成してくれる画期的なサービスなのです。
その中核となるのは、HM-EX社が保有するAI(人工知能)構造設計システム「HM-EX CAD」です。
ビルダーや工務店から「ARCHITREND ZERO」で作成された意匠図データがクラウドにアップされると、(1)構造計算書、(2)基礎・構造伏図、(3)プレカットCAD連携データ、(4)構造材や金物の数量拾いデータを自動作成してくれるのです。
また、プレカット工場はクラウドからプレカットCAD連携データをダウンロードし、木材加工用のCAD/CAMデータをスムーズに作れます。
構造設計では、「耐震等級3」の性能確保に必要な最適部材を自動算出してくれます。そのため2020年3月の建築士法改正で義務化された、すべての建築物に対する構造計算書の保存にも対応できます。
ARCHITREND ZEROには「HM-EX連携ソフト」をインストールします。柱や耐力壁を入力しなくても、クラウドにアップする前に耐震等級3が取得できるかを事前にチェックできるので、「構造がもたなかったから、意匠図作成をやり直し」といった手戻りがありません。
気になる「構造エクスプレス」の利用料金ですが、
1棟当たり18万円(税別)
で、このほかHM-EX連携ソフトが1ライセンス10万円、クラウドの初期設定が10万円とのことです。
このシステムは既に全国各地でモニター利用されており、ユーザーからはおおむね好評のようです。
ある建物では、リードタイムが7人日短縮され、構造のコスト圧縮効果は7万円あったそうです。
3次元で住宅を設計し、様々な作業を自動化する「ARCHITREND ZERO」について、福井コンピュータアーキテクトはBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフトとは呼んでいませんが、既にBIMを超えた企業間ワークフローや設計者と工場とのデータによる連携を実現していると言えます。
今回の「構造エクスプレス」を使いこなすことで、建設業の人手不足問題やコロナ禍による移動制限への対応、そして生産性の向上を実現できそうですね。