管理人のイエイリです。
京都府宇治市にある京都大学防災研究所では、毎年のキャンパス公開日に、風洞実験設備の体験を行っています。
見学に来た小学生たちに、研究員が「強い風が吹くから怖いぞ」と脅かしても、小学生たちは逆にニコニコと楽しんでいる様子です。
このことに“危機感”を抱いた同研究所耐風構造研究分野の西嶋一欽准教授らは、小学生たちがマジで怖がる風洞を開発しようと立ち上がりました。
そのプロジェクトとは、乱れのある強風を受けながら
ナ、ナ、ナ、ナント、
VRゴーグルで実際の台風
を360度映像で見て、強風の音をステレオで聞くという、超リアルな「ハイブリッド型強風体験VRコンテンツの開発」だったのです。
最初の課題は、実際の台風の360度映像や音、そして体で感じる風速や風圧のデータ収集でした。特に変動する風圧を、胸、腕、背中など体の各部分で正確に測定するためには高度な技術が必要とのことです。
西嶋准教授らはマネキンに様々なセンサーを取り付けた計測装置や、360度パノラマカメラ「RICOH THETA V」と3Dマイクで映像と音を記録する装置を製作し、これらのデータや映像を同期させるシステムを完成させました。
次の課題は、どこで台風のデータをゲットするかです。そのためには、台風の進路予想から計測場所を決定し、先回りして機器を設置しなければいけません。
2020年8月の台風8号、9号ではそれぞれ長崎と熊本でスタンバイしていましたが、残念ながら空振りに終わりました。
続く9月の台風10号では、鹿児島市でスタンバイした結果、見事に記録に成功しました。続く10月の台風14号も、和歌山でスタンバイし、記録成功となりました。
鹿児島市で撮影された台風10号の360度映像
この貴重なデータを風洞で再現するためにも、チャレンジがありました。それは乱れのある「変動風」をいかに作り出すかです。
そこで風洞の中に変動風生成翼を設置して、翼の枚数や角度を変えながら風速・風圧や乱れ強さ、そしてパワースペクトル密度を計測し、評価しました。
その結果、2枚の翼を対称的に60度の角度で取り付けたとき
乱れ強さが最適
になることが分かりました。
さらに、映像や音を再生するVRゴーグルやヘッドホンなどについても吟味を行い、最適なものを選び出しました。
こうして、京大防災研が“本気”を出して開発したハイブリッド型強風体験VRコンテンツが、完成に至ったのです。
西嶋准教授らは、この強力なVRコンテンツを準備して、2021年度の京都大学宇治キャンパス公開日に小学生たちがやってくるのを待ち構えています。
公開当日には、風洞の中から小学生たちの悲鳴が聞こえてくることを祈りたいですね。
こうしてリアルな台風体験を行っておくと、災害への関心が深まり、強風の危険などについても理解が深まりそうです。