管理人のイエイリです。
山間部で土石流を食い止める砂防ダムを設計するとき、ベストな建設地点を選ぶのは気が遠くなるような作業が必要です。
例えば、下のような谷地形があったとき、建設候補の場所は無数にあります。建設位置が変わると、上流から流れ込んでくる土砂や流木の「流出量」が変わり、堤高が変わると砂防ダムが食い止める土石流の量も変わります。
最もコストパフォーマンスの高い設計にするには、場所と堤高などの組み合わせを無数に変えて計算し、その中から最適な結果を選ばないといけないのです。
この膨大な計算を瞬時に行い、最適解を見つける方法が、オートデスクのCIM(コンストラクション・インフォメーション・モデリング)ソフト「Civil 3D」の“裏ワザ”として開発されました。
同社のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「Revit」に搭載されている「ジェネレーティブ・デザイン(Generative
Design)」という機能を、
ナ、ナ、ナ、ナント、
Civil 3Dに移植
して自動計算を行うというものなのです。
ジェネレーティブ・デザインとは、ソフトに設計のゴールや制約などの条件を与えて、無数の試行錯誤計算を行い、最も優秀な結果を設計者が選ぶというBIM/CIM時代の設計法です。
ジェネレーティブデザインの機能をRevitからCivil 3Dに移植したのは、この繰り返し計算を自動的に行わせるためです。ただ、この裏ワザは、オートデスクが公式サポートしているものではありませんので、試す場合は自己責任でお願いします。
その手順を説明した動画「Civil 3D Generative Design (砂防堰堤の配置検討)」が、オートデスクの「BIM design」というウェブサイトに掲載されているので、ポイントを見てみましょう。
Civil 3D Generative Design (砂防堰堤の配置検討) | BIM Design 土木・インフラ向けサイト
まずは砂防ダム(堰堤)の最適配置を決めるロジックを、フローチャートで整理します。そして、そのロジックを、Dynamoのプログラムとしてグラフィカルに記述します。
そして500メートルほどの区間を建設地点として設定するとともに、建設コストを少なくするため堤高・堤長・断面積を最小化するという目標を設定します。
プログラムを走らせると、DynamoがCivil 3DやExcelの表に書かれた計画流出土砂量などのデータをあちこちから拾ってきて、建設地点を様々に変えながら自動計算を行い、結果を表示します。
ここに表示された結果は、無数に行った計算の中でも選び抜かれたものですが、最後に
人間が最終決定
を行い、建設地点を決めます。
このプログラムは、アサヒコンサルタント(本社:鳥取市)の若手土木技術者、宮内芳維氏が発案し、キタック(本社:新潟市中央区)がワークフローの作成、そしてオートデスク(本社:東京都中央区)がプログラムの作成を担当しました。
以前から、繰り返し計算を行って最適解を選ぶ方法はありましたが、変数の刻み幅や計算に必要なデータの数値などを自分自身でプログラムに組み込むなど、手軽に行える方法ではありませんでした。
その点、ジェネレーティブ・デザインのソフトを使うと、設計の目標や制約を人間が指示するだけで、あとはプログラムが自動的に結果を出してくれます。
まさに、AI(人工知能)とBIM/CIMの組み合わせによるDX(デジタル・トランスフォーメーション)と言っても過言ではありませんね。