管理人のイエイリです。
駅のホームを歩くときは、屋根や天井を支える柱や階段、駅員さんの詰め所など、いろいろなものを避けながらジグザグに進むことがよくあります。見通しも悪いので急に反対側に行こうとする人が目の前に現れたりします。そして、電車が到着してドアが開くと、下りてくる人たちでホームの上は急に混雑度が増します。
さらに、エレベーターの増設工事などで、駅構内の歩行スペースが限られると、思わぬところに歩行者がたまってしまう「ボトルネック」が発生することがあります。
そこで鹿島は、駅構内の歩行者の動きを再現する歩行シミュレーションシステム「Sim-Walker(シム・ウォーカー)」を開発しました。歩行者を単なる“流体”ではなく、
ナ、ナ、ナ、ナント、
意思や性格をもつ人間
として扱えるようになっているのです。
Sim-Walkerによるシミュレーション結果(左)。3Dグラフィックソフトと連係して表現した結果(右)(資料:鹿島。以下同じ) |
例えば急ぐ人や普通に歩く人など、歩行速度や他の歩行者に接近する許容距離などの行動特性を一人ひとりについて設定し、駅構内の群集の動きを再現できます。
歩行者の動きを再現する理論は浅野美帆氏の東京大学博士論文「歩行者交通流動評価のためのシミュレーションモデルの開発-予測を考慮して」に基づいていますが、駅構内を歩く人のクセを現場で調査し、「歩行行動ロジック」として追加し、より現実に近い歩行者流動の状態を再現できます。
シミュレーション結果は平面図上に人を点群として表示できるほか、3Dグラフィックスソフト上で歩く人の姿をリアルな映像としても再現できるので、どんな問題が起こりそうなのかを誰もがすぐに理解できます。
使い方はまず、現場で歩行者流動調査を行ってインプットデータを作り、一度、シミュレーションを行って実際の歩行者の動きとあっているかどうかを確かめます。
そして、駅の工事に伴う通路の閉鎖など空間的な条件を変えてシミュレーションし、人が通りにくい場所がないかどうかを確認します。問題がある場合は改善案を作りシミュレーション、ということを繰り返して、施工計画を作成するというわけです。
Sim-Walkerを用いた歩行空間の評価フロー |
このシステムは、これまで
6件の駅改良工事
の調査や施工計画の立案に使われました。
下の図はある駅での解析結果で、空間を2m四方のメッシュに分割し、歩行者密度を10秒刻みで集計したものです。左側のもとの計画だと右上の通路が激しく混雑することが分かります。そこで右側の図のように新たな通路を離れたところに設けると、混雑度合いがぐっと緩和されることが分かります。
もとの計画(左)は右上の通路が激しく混雑しているが、新しい通路を設けた場合(右)は混雑度合いが大幅に緩和されることが分かる |
このシステムの強みは、何といっても鹿島が自社開発したところにあります。そのため歩行行動ロジックを追加するなど高度な解析を行えます。今後は駅構内のほか、歩行空間が近接する都市部の工事や避難計画などにも活用していく方針です。