グラフィソフトジャパンのBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)ソフト「ArchiCAD」は、3Dモデリングや図面作成などの機能が進化し、ユーザーが作成するBIMモデルも大規模、複雑化してきた。そんなユーザーにお勧めなのが、エーキューブが販売するグラフィックボード「AMD FirePro W5100」だ。最大で4台のモニターを同時に使えるので、3Dモデルと平面図、立面図、断面図を別々のモニターに同時に表示しながら設計が行える。グラフィソフトジャパンの技術者が徹底検証した。
FirePro W5100で描画速度が2倍に
今回の検証テーマは、エーキューブのグラフィックボード「AMD FirePro W5100」はグラフィソフトジャパンのBIMソフト「ArchiCAD」の性能をどこまで引き出せるのかだ。グラフィソフトジャパンのカスタマーサービスエンジニア、高橋靖幸氏は「4年前のワークステーションにAMD
FirePro W5100を載せたところ、描画速度が約2倍にスピードアップしました」と語った。
グラフィソフトジャパンが販売するBIMソフト「ArchiCAD」は大規模な建物のBIMモデルに、複数の設計者が同時にアクセスして並行作業で設計を進められる「チームワーク機能」や、インターネットを使って世界中どこからでも設計に参加できるクラウドシステム「BIMcloud」などに対応している。
これまでは大手企業のユーザーが多かったが、マニュアルをあまり見ないでも使える簡便さや、詳細な図面作成を行いやすい機能などが評価され、最近は地方の中小の建築設計事務所や建設会社にもユーザーが拡大中だ。
ArchiCADは、BIMが普及し始めたときから、他社に比べ比較的大規設計でも利用されてきた。しかし、最近のBIMモデルはこれまで以上に物件が大型化するとともに、意匠・構造・設備モデルとの統合などにより詳細になってきた。「以前は建物本体だけをBIMモデル化していましたが、最近はよりリアルな完成イメージを作るために家具や植栽なども入力するケースが多くなりました」と高橋氏は説明する。
ArchiCADを使うためのワークステーションやパソコンもハイスペックなものが求められている。「マシン本体のメモリー容量として8GB~16GBはほしいですね。そして大事なのはグラフィックボードです。BIMモデルの拡大・縮小やウォークスルーをスムーズに行うためにはメモリー容量は1GB以上、OpenGLの描画機能が安定して動くことが必要ですね」(高橋氏)。
4年前のワークステーションで“極限テスト”を実行
AMD FirePro W5100がArchiCADの性能をどれだけ引き出せるかをテストするため、高橋氏が選んだのは4年前のデスクトップ型ワークステーションだった。OSはWindows7の64ビット版、CPUはIntel i5 670、メモリーは4GBという仕様だ。グラフィックボードは2世代前のものを搭載していた。
そして、実験には大型高層ビルのBIMモデルを使った。32ビット版のWindowsマシンだと、開くだけでやっとというくらいのサイズだ。実験には64ビット機を使うとはいえ、“極限”に近いサイズだった。
「まず、もとのグラフィックボードのままでこのBIMモデルを開いてみました。モデルを回転させようとすると、画面のリフレッシュに6~7秒もかかり、非常に遅いコマ送りのようになりました。しかもコマとコマの間は真っ黒になり、ウォークスルーもぶつ切れになってしまいました」と高橋氏は説明する。
そこで、グラフィックボードだけをAMD FirePro W5100に変えて同じように回転操作を試みた。「今度はコマ送り速度が3秒程度に半減しました。ウォークスルーしたときも、コマとコマの間も画面が途切れることなく、連続していました」(高橋氏)。
もっと高性能のワークステーションを使って実験すれば、グラフィックボードの性能による差は気づきにくいかもしれないが、極限テストならではの“スローモーション効果”によって、AMD FirePro W5100の性能は2世代前のグラフィックボードに比べて、ArchiCADの描画スピードを2倍以上に引き出せることがわかった。
グラフィックボードをAMD FirePro W5100に変えると、画像処理速度が2倍以上になった |
4Kモニターを最大4台使えるFirePro W5100
今回の検証実験で使ったAMD FirePro W5100は、ミッドレンジクラスの高性能グラフィックスボードだ。グラフィックメモリーには4GBのGDDR5メモリーを使用し、最大解像度はナント、4096×2160だ。そして4つの出力ポート(DP)を4つ備える。
つまり、4Kモニターを4つ同時に使いながら、ArchiCADの3Dモデルと平面図、立面図、断面図を各モニターに映し出して設計することもできるのだ。
そしてグラフィックの演算処理スピードは、2世代前のハイエンドグラフィックボード「FirePro V7900」より速くなっている。
「液晶モニターは故障しにくく、普通は10年くらいもちます。新しいモニターを買ったときに、古いモニターもそのままサブモニターとして使うと、設計作業も効率的になりそうですね」と高橋氏は言う。
高性能のグラフィックボードというと、消費電力も気になるところだ。その点、FirePro W5100の消費電力は75W以下で、グラフィックの演算処理量に応じてクロック数をフレキシブルに増減させる機能が付いている。そのため省エネ効果も優れている。
「ArchiCADユーザーに安心してお薦めできる」
ひと昔前のArchiCADユーザーの中には、AMDのグラフィックボードとArchiCADの相性を心配する人もいるかもしれない。しかし、最近、ArchiCADのバージョンが12、13と上がるのと並行して、AMDはハンガリーのグラフィソフト本社と連携して、ArchiCADとの相性を地道に高めてきた。
「確かに5年前まではArchiCADをAMD製のグラフィックボード付きマシンで使ったときには、動作が不安定になる場合もありました。しかし、その心配は今回の検証実験で吹き飛びました。実験の途中、動作はずっと安定しており、一度もトラブルはありませんでした」(高橋氏)。
「AMD FirePro W5100は、BIMソフトを多くの画面で使いたいユーザーに向いているグラフィックボードだと感じました。ArchiCADユーザーに安心してお薦めできる製品です」と、高橋氏は最終評価を語った。
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