管理人のイエイリです。
BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)や3次元CADによる設計の普及とともに、建物や構造物の3Dデータから立体の模型を造形する3Dプリンターという機器が建設業界でもここ数年、使われ始めています。高さ数メートルの大きさの彫刻などを造形できる「巨大3Dプリンター」も、実用化されています。
3Dプリンターは、プラスチックや石こうなどの材料、建物や構造物の断面に少しずつ積み上げていくことで立体の模型を作る仕組みになっています。
これと似た方法で、小さなブロック材料を積み上げることで、建物を作ってしまおうという画期的な建設手法がスイスのチューリッヒ工科大学(Swiss Federal Institute of Technology Zurich)で開発されています。
材料を積み上げる役目を担当するのは3Dプリンターのヘッドではなく、
ナ、ナ、ナ、ナント、
多数の小型ヘリコプター
なのです。
4つの回転翼を持つ小型ヘリコプターで小さなブロックを持ち上げて飛行し、建物の所定の断面に設置する、というものです。まずは、その驚くべき手順をご覧ください。
ヘリコプターのグリップでブロックをつかみ、離陸する |
建物上空までブロックを空中輸送 |
設置位置の上空でホバリングし安定させる |
スピーディーに降下し、ブロックを設置(images: Courtesy of Swiss Federal Institute of Technology Zurich) |
YouTubeで公開されている動画 |
この“ヘリコプター工法”は建築設計事務所の「グラマジオ・アンド・コーラー(Gramadio & Kohler)」と、チューリッヒ工科大学のラファエロ・ド・アンドレア教授(Prof. Raffaello D'Andrea)が共同で開発しているもので、「Flying Machine Enabled Construction」と名付けられています。
建物の周囲に沿って2つのヘリコプターの航路が設けられており、ヘリコプター同士が空中衝突しないように「航路予約システム」が作動しています。
予約した空間には他のヘリコプターが入って来ないようになっています。ヘリコプターがその空間を通過した後は、予約が解除され、他のヘリコプターが進入できるという仕組みです。
航路予約システムの概念図。黒と赤の空間は、それぞれ別のヘリコプターのために予約され、他のヘリコプターは進入できない(image: Courtesy of Swiss Federal Institute of Technology Zurich) |
ブロックを高い精度で確実に積み上げるためには、空中でヘリコプターを安定させる必要があります。そのため、ブロックを運んできたヘリコプターは設置位置の上空でしばらくホバリングし、位置を安定させます。
それから設置位置に向けて降下しますが、ゆっくり降下すると建物による「地面効果」の影響でヘリコプターが不安定になるので、
素早く降下させる方がいい
とのことです。
ブロックをつかむ装置。サーボモーターで動く3つのピンでブロックを突き刺し、保持する仕組み(image: Courtesy of Swiss Federal Institute of Technology Zurich) |
また、この研究では施工体制についてもしっかり検討されており、ブロックの位置や設置順序を定義した設計図ファイルに基づき、管制塔の役割を果たす「現場監督(Foreman)」と、ヘリコプターを運航する「作業員(Crew)」の各システムが指揮命令系統に従って整然と施工を進めるようになっています。多数のヘリコプターを使い、同時に制御することで、施工の生産性を高めることができます。
施工体制(image: Courtesy of Swiss Federal Institute of Technology Zurich) |
現場監督用のシステム画面(image: Courtesy of Swiss Federal Institute of Technology Zurich) |
4つの回転翼が付いたヘリコプターは、非常に安定性がよく、「飛行するロボット」として屋内の測量に使う研究なども行われています。
3Dプリンターだと、建物以上の大きさの装置が必要ですが、ヘリコプター方式だと大がかりな装置はいりませんので、魅力ですね。チューリッヒ工科大学の今後の研究に期待したいです。