ラズパイを低価格地震計に! 飛島建設がコスト10分の1の地震観測システムを開発
2021年8月23日

管理人のイエイリです。

建物が大きな地震にあったとき、構造部分の被害状況をスピーディーに把握・評価するために「構造ヘルスモニタリング」(以下、SHM)が重要な情報源として注目されています。

SHMとは、建物に高精度の地震計やパソコン、周辺機器などを設置し、そのデータをクラウドに送信して管理するものです。

そのため、設置工事や調整作業に300万~1000万円程度の初期費用が発生し、電気代や維持管理費用、さらには機器の陳腐化や老朽化に伴う更新費用と、ランニングコストもかなりの額になることが、SHMシステム普及の足かせになっていました。

また、各機器は個別に保守点検を行う必要があり、設置スペースも必要なので、既存建物への導入も困難でした。

従来の構造ヘルスモニタリングシステムの例。設置や維持管理に大きなコストが必要だった(特記以外の資料、写真:飛島建設)

こうしたコスト面や設置面の困難を克服するため、飛島建設は画期的な「簡易型地震計測システム」を開発しました。

システムを低価格化するために、

ナ、ナ、ナ、ナント、

ラズパイを低コスト地震計

として活用したのです。(飛島建設のプレスリリースはこちら)

ラズパイの一例。写真は今回のシステムに使われたラズパイとは異なります(写真:家入龍太)

ラズパイを活用した簡易型地震計の設置状況

「ラズパイ」とは、カードサイズの超小型パソコン「Raspberry Pi(ラズベリーパイ)」のことです。小さな基盤にCPUやメモリー、通信装置などが搭載されており、オープンソースのOS「Linux」で動作します。価格は1台数千円です。

飛島建設は、このラズパイに低ノイズのMEMS(※)加速度センサーを組み合わせて強震計を作りました。サイズは縦90mm×幅62mm×35mmと小型です。

(※)MEMS=Micro Electro Mechanical System。微小な電子機器を集約化したデバイスのこと。

地震計自体がパソコンなので、自ら地震の計測・制御・分析を行います。地震計には独自の計測用プログラムが組み込まれており、普段は常時微動を計測しますが一定以上の大きな加速度を検知したときは、加速度データのファイルを作り、内蔵のSDカードに保存します。

そのため従来のシステムで必要だったデータ記録器(ロガー)や分析用のパソコンなどが不要となり、シンプルなシステムになりました。

建物内への機器の設置方法は、地震計の計測方向を決めて設置位置の墨出しを行い、次にコンクリートスラブ面に6mm程度の乾式アンカーを4点打ち込み、地震計を取り付けます。最後に電源を接続して起動させます。

墨出しから動作確認まで、わずか1時間程度で行えます。建物屋上階と1階を結ぶLANケーブルは、EPS内に配線でき、わずかな床スペースさえあれば設置できるので、既存のビルにも簡単に取り付けられます。

ラズパイの地震計を使った簡易型地震計測システム構成図

その結果、SHMシステム構築のコストは、

従来の10分の1程度

と、大幅に安くなりました。

飛島建設は、日本石油販売(本社:東京都中央区)の協力を得て、同社の事務所ビル2棟にこのシステムを設置し、共同研究を始めました。

1棟は2013年竣工のセルコンスクエアビルで、飛島建設「トグル制震ブレース」付きの鉄骨造、地上7階建てです。もう1棟は2003年竣工のセントラルスクエアビルで、在来鉄骨造、地上9階建てです。2棟は、道路をはさんで向かい合っています。

SHMシステムを後付けしたセルコンスクエアビル。窓の奥にトグル制震ブレースが見える

2棟の事務所ビルと地震計の設置位置

セルコンスクエアビルの1階機械室(左)と屋上階ハト小屋内(右)に設置した簡易型地震計と高性能サーボ型地震計

セルコンスクエアビルには簡易型地震計の近くに高性能サーボ型地震計も設置し、計測データを比較できるようにしました。

2021年3月20日の18時9分ごろ、宮城県沖で発生したM6.9の地震波形は以下の通りで、波形や最大加速度も非常に近い値が観測されました。

1階短辺方向の加速度波形

1階長辺方向の加速度波形

飛島建設では今後、さらにいくつかの建物にこのシステムを試験導入し、来年をメドに独立簡易型地震計測システムによる高精度被災ツールを構築し、商品化を行います。

また、同社では建物オーナー向けに会員サイト「Customer Support Site」を設け、建物の建設時や竣工図面など、様々な情報を一元管理できるサービスを提供しています。

今後は、地震計測システムの情報をリアルタイムで見られるようにすることで、手軽に導入できるSHMシステムを目指していくとのことです。

ラズパイはこれまで、機器の試作などに使われてきましたが、建物の設備として活用することで、高性能な計測や制御を低コストで行えるシステムがいろいろと開発できそうですね。

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