管理人のイエイリです。
臨海工業地帯に並ぶ石油化学などのプラントには、数千本、数万本の配管が施されており、その美しさから“工場萌え”ブームまで引き起こしました。
膨大な配管は、それぞれ特定の機器同士を間違いなく接続する必要があるため、その設計・施工は大変です。
1本の配管を設計するのに2時間かかることも珍しくないため、もし一人でプラントを設計した場合、10年かかるとも言われています。
この大変な設計作業を効率化しようと、プラント建設大手の千代田化工建設(本社:神奈川県横浜市)と、CADソフト開発のスタートアップ企業、Arent(本社:東京都中央区)は、合弁会社 PlantStream(本社:東京都中央区)を設立し、3Dでの配管設計を効率的に行えるプラント空間設計支援CADツール「PlantStream」を2021年に開発しました。
PlantStreamは、配管の始点と終点を指定すると、その間の配管ルートを3Dで自動的に設計してくれるものです。
使い方は、プラントの敷地内に多数の装置や機器を並べて、配管を通す「ラック」を配置しておきます。
そして、「自動配管」のコマンドをクリックすると、
ナ、ナ、ナ、ナント、
1分間に1000本
もの配管を、自動的に配置してくれるのです。
このソフトが登場したおかげで、配管設計など空間設計の工数は約80%も削減できました。プラント業界にも衝撃を与えました。
これだけでも画期的な機能ですが、PlantStreamは2022年8月16日に、さらにきめ細かいバージョンアップを行いました。(PlantStreamのプレスリリースはこちら)
その1つは「Piping Path」という機能で、複数の配管を束ねたり、壁沿いに配管を通したりするルート制御が簡単にできるようになりました。配管ルートは、設計品質の重要な要素なので、これからもさらにバージョンアップを続けていくそうです。
「Route Assist」機能は、水平・垂直だけでなく「斜め45度」などのルートを自動作成して、最短の配管ルートを自動的に作るものです。設計者が理想とするルートに近づくことで、見積もり精度も向上しました。
また、「ISO View」機能は、選択した配管だけを表示し、配管長やエルボ(曲管)の個数を表示するものです。この機能によって配管のチェックや、圧損計算を担当する部署とのデータのやりとりが大幅に効率化されました。
このほか、プラント業界的に重要なのは「Project Import」機能です。これまでは、別々に作成した機器や構造物、配管などを1つのモデルにまとめるとき、これまではCSV形式のデータに変換して読み込んでいたため、かなりの属性情報が欠落してしまいました。
今回、ISO View機能が開発されたことで、属性情報を持ったままデータを結合できるようになり、
複数人で共同作業
が行えるようになったのです。
これだけ、ユーザーにニーズに合ったきめ細かい開発が行えるのは、PlantStreamのCEO、愛徳哲太郎氏が以前、千代田化工建設の設計技術者だったからです。
当時、経験した労働集約的な配管設計作業を何とか改善したいという思いが、今回のバージョンアップにも生かされました。
建築・土木分野では、BIM/CIMデータをクラウドで共有し、チームで設計することはかなり以前から行われていましたが、配管の自動設計などはまだまだこれからです。
建築・土木とプラントの両分野のソフト技術が融合することで、設計技術はさらに自動化が進みそうですね。