札幌市がMRで会沢高圧コンクリートの工場を遠隔臨場! 品質管理も完全自動化へ
2021年7月1日

管理人のイエイリです。

会沢高圧コンクリート(本社:北海道苫小牧市)は、コンクリートと先端テクノロジーをかけ算したDX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みで知られています。

例えば、コンクリート3Dプリンターで令和の時代に入ってからわずか2時間後に“令和”のオブジェを造形したり(2019年4月12日付けの記事参照)、日本で初めて建築物としてのトイレ建屋を造ったり(2020年10月9日付けの記事参照)したほか、ドローン(無人機)による施工管理やひび割れを自ら修復するコンクリートも開発しています。

会沢高圧コンクリートが導入したコンクリート3Dプリンター(以下の写真、資料:会沢高圧コンクリート)

そんなイノベーティブな同社の工場で、MR(複合現実)デバイス「Trimble XR10」(以下、XR10)を装着した技術者が、ノギスやメジャーテープで製造中のプレキャスト部材を計測する姿が見られました。

XR10とは、現実の物体の上にBIM/CIMなどの3Dモデルや図面、映像などを重ねて見られるもので、マイクロソフトの「HoloLens2」とヘルメットや骨振動ヘッドセットなどを一体化したデバイスです。

XR10を着けてノギスで鉄筋径を計測する技術者。その様子をiPadで現場指揮者が撮影している

これはいったい、何をしているのかというと、

ナ、ナ、ナ、ナント、

札幌市職員による遠隔臨場

だったのです。(会沢高圧コンクリートのプレスリリースはこちら

札幌市内の立会会場で、現場からナマ中継されてくる映像を見ながら遠隔臨場を行う札幌市職員ら

「遠隔臨場」とは、これまで発注者が現場に出向いて行っていた立会検査を、オンライン会議方式で行うものです。

札幌市の監督員らは、札幌市内にあるアイザワ技術研究所内に設けた立会の本部で、現場から送られてくる映像を確認し、現場にいる技術者と音声通話しながら遠隔臨場を行いました。

中継されてきた映像は非常に鮮明で、ノギスの目盛りまで読み取ることができました。

会場の大型モニターに表示された現場からの映像。XR10からのメイン映像の左側にiPadで撮影した映像や検査中のデータ、右上に定点カメラからの全体映像が表示され、ミクロからマクロまでの情報が把握できる

上記のノギス部分の映像。D29と思われる異形棒鋼の節径が、ノギスの目盛りから「32.65mm」であることが遠隔臨場の本部モニターでも読み取れる

遠隔臨場を行った工事は、札幌市下水道河川局発注の「防災・安全交付金事業 1級河川雁来川改修工事」です。

河川に沿ってプレキャスト製の大型分割ボックスカルバートを敷設する工事で、会沢高圧コンクリートは「その1工事」(元請:田中組)と「その3工事」(元請:勇建設)で、遠隔臨場を行いました。

河川に沿って設置するボックスカルバートの割り付け図

「その1工事」では、工事に使用するボックスカルバート40函のうち34函(68ピース)を2つの工場で製作しました。

これらの工場は札幌市から遠距離にあり、コロナ禍でテレワークが推奨されている状況でもあったため、会沢高圧コンクリートとしては初の遠隔臨場を元請けの田中組に提案し、札幌市の了承を取り付けたのです。

2021年3月26日に行われた「その1工事」での遠隔臨場の対象は、型枠検査から配筋かぶり検査、配筋検査、打設生コン性状確認、外観、寸法検査、圧縮強度試験などすべての項目に及びました。

工場では定点カメラ2台で全景を撮影し、iPadで計測値を撮影しました。

MRデバイス「XR10」が使われたのは、続いて行われた「その3工事」でした。この工事では、残りの6函のカルバートを工場製作しました。

5月19日の遠隔臨場では、「その1工事」と同様に定点カメラ2台と計測用iPadを使いましたが、6月18日の遠隔臨場ではXR10を初めて使用したのです。以後は、XR10を使った遠隔臨場を予定しています。

定点カメラで検査の全体像を確認しながら、MRデバイスで細部を見る検査方法について、発注者の札幌市下水道河川局事業推進部河川事業課河川工事係の橋本尚棋氏は、「移動時間の削減がもたらす業務改善効果は強く実感できた。検査の信頼性も高い」と語っています。

また、元請けの勇建設工事部工事課の工藤完課長代理は、「現場の人手不足は慢性化しており、省人化につながる取り組みとして非常に参考になった」と感想を語りました。

やはり、人手不足に悩む建設業が生産性向上に向けて取り組むべきことのナンバーワンは、

「移動のムダ撲滅作戦」

であるようです。

XR10を使った遠隔臨場システムは、会沢高圧コンクリートと、MR技術を得意とするハニカムラボ(本社:東京都渋谷区)が共同開発したものです。

今回の遠隔臨場では、BIM/CIMと現場を重ねて見るといった3次元っぽい使い方はありませんでしたが、今後は進化が期待できそうです。

会沢高圧コンクリート代表取締役社長の會澤祥弘氏は「まずは既存の立会などをデジタル化、遠隔化、効率化するところからスタートしたが、すべての設計は3次元でデータ化されている」と語りました。

今後は「設計データが1対1のスケールで現物のプレキャスト製品と現場でツインを形成し、製品の寸法精度などを瞬時に判定するなど、品質管理の完全自動化も視野に入ってくる」(會澤氏)とのことです。

XR10を装着した技術者が見る画面のイメージ。今後は3Dデータの活用へと進化しそうだ

「完全自動化」というくらいですから、現場の部材とBIM/CIMモデルをMRデバイスで重ねて見て、AI(人工知能)が精度を自動判定する、といったことくらい、考えているかもしれませんね。(注:あくまでも筆者の妄想です)

会沢高圧コンクリートのコンクリート3Dプリンターだけではなく、MR活用からも目が離せなくなってきました。

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