管理人のイエイリです。
BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)の活用が広がっていますが、その対象は主に新築物件で、既存建物の改修での活用はあまり進んでいません。
というのは、長期にわたる維持管理の間に小さな追加工事が行われ、改修工事の時は図面と現況が異なっていることが多いからです。
様々な業務効率化のもとになるBIMが、改修工事に使いにくいのは問題ですね。
そこで東急コミュニティー(本社:東京都渋谷区)は、既存建物の現況BIMモデルを手軽に作れる方法にチャレンジしました。使ったのは3Dレーザースキャナーではなく、
ナ、ナ、ナ、ナント、
Matterport Pro3
という3D撮影カメラだったのです。(野原グループのプレスリリースはこちら)
Matterport Pro3とは、写真を撮影するカメラと点群計測を行うLiDARの両方を搭載した計測機器です。
3Dレーザースキャナーのように三脚に載せて、周囲をぐるりと旋回して計測しますが、1回の計測にかかる時間はわずか20秒足らずです。本体重量は2.2kgと小型で軽量です。
既存建物を計測するときは、Matterport Pro3を載せた三脚を現場に置き、タブレット上の「計測開始」ボタンを押すだけです。計測が終わったら、数メートル移動して計測、という作業を繰り返します。
計測が終わったら、クラウドにデータを転送します。すると数時間後には複数箇所で計測されたデータが自動的に結合され、点群データや現況3Dモデルが出来上がります。それをクラウドでどこからでも見られるのです。
東急コミュニティーはこうして自動作成された点群データから、野原グループが提供するサービス「Scan to BIM」を使って、BIMソフトである
Revitのモデル
を作成したのです。
Revitモデルから改修工事に必要な2D図面を効率的に作業できたとのことです。東急コミュニティーの担当者によると、その出来栄えは「若干の修正が必要なものの、十分な品質だった」とのことです。
Scan to BIMで、点群データをBIMモデルや図面を作成し、納品されるまでの時間も思ったより早く、大幅な省力化が期待できそうとのことでした。
MatterportのデータをBIMモデル化するサービスは、Matterportのアドオンサービス「BIMファイル」もあります。
野原グループの「Scan to BIM」は「BIMファイル」に比べて「打ち合わせができる」「LODの指定ができる」「Revitのバージョンを指定できる」「使いたいファミリやテンプレートを指定できる」「修正ができる」「屋外も対応可能」「顧客の要望によってアレンジ可能」などの柔軟性やメリットがあります。
今回の取り組みは、東急コミュニティーが施工するオフィスビル改修工事(床面積約2500m2)で、同社とともにMatterportの日本国内代理店を務める野原グループ(本社:東京都新宿区)がサービスを提供して行いました。現場でのスキャニング作業は屋上や外構を含めて約7時間でした。
イエイリもMatterport Pro3の姉妹機である「Pro2」を使って現場のスキャニング作業を体験したことがありますが、三脚を少しずつ移動させながら計測を繰り返していくだけなので、通常のデジタルカメラよりも簡単なくらいでした。(2023年4月25日付のサクセスストーリーを参照)
これなら、だれでも簡単に現場計測が行えそうです。また、点群からBIMモデルや図面を作成するややこしい過程も、手軽に外注できるので、あれこれ悩まずにすみます。
この全員参加型のデジタルツイン化が可能になると、現場を3Dで記録し、クラウドでの共有やBIMモデル化までの過程に、手作業や手待ちのムダなどがなくなり、大幅な生産性向上が実現できます。
来年から建設業の残業規制が強化される「2024年問題」の解決策にもなりそうですね。
【訂正】
初出では、「Scan to BIM」はMatterportのアドオンサービスと記しておりましたが、正しくは野原グループの提供サービスでした。お詫びして訂正します。(2023年7月31日)